もう鳴らない電話
昨日、めー(彼女)の寮に泊まり、
今日めーから別れを告げられた。
以前からその気があったんだけれど
原因は相手の浮気。
それも、ずっと
       
           騙されていた

いや、めーなりに悩んだんだろう。
だけど今年に入ってからずっと二股をかけられていた。
嘘をつかれていた。
この事実を知ったとき、
2年の間にもはやすべてになっていた想いが
かわいた砂みたいにさらさらと
崩れていった
そんなに、大きな音も立てることもなく。

昨日、めーと二人でデートをした。きちんとけじめをつける。天気のいい夕方に、そんな話をするためだった。
大学に入って2年が過ぎるが、車もなく免許もなくお金もない、楽しいところに連れて行ってあげることができない事に大きなコンプレックスを抱いていた僕にめーは言った。

「服見に行こうよ」

ありがとう。まだ優しくしてくれるんだね。

「うん」

「ココもみていい?」

ありがとう。俺 無理させてるね。

「ごはん、ボンヌールでいいびゃ。おごってける^^」

彼女は優しい。

苦しいほどに。

あったかいビーフシチューを食べながらのたわいないおしゃべりの端にも、気まずい空気を作らないようにする二人がいた…
フォークを持ちながらめ−は薄く微笑んだ顔で

「そういえば前、一緒に駅ビルで買ったパジャマあっけべ?あれ よー コマさ見せたらちょっと変だってw」

「うん・・・・そっかw・・・」

うん・・・・ 悪気はないんだ・・・

でも、この一カ月の間で弱りきった心臓を貫くには十分すぎる言葉だった。

この子は何のけじめもつけないまま、中途半端なココロのまま男と寝た。

何もいえなかった。
ただ、あふれようとするものを水と一緒に飲み込むしかなかった。

寮で話すために山形に来た。

それだけにDVD借りて見ようなんていうめーの薄っぺらい策略が痛んだ心を踏みにじった。

ただ、楽しく過ごしたかったのだろう。
でもそんな楽しさに魅かれるほどもう傷は浅くなかった。

ほんのひと月前までめーがそうしてきたように
僕がすっと左手をつないだ。

握り返してはこない。

「・・・・やだ?」

「・・・・」

どうしてこうなってしまった?

いつから?

何かを言おうとしためーの声はかすれて車の音に消された。

めーの部屋についた

俺の胸が痛くなるのに時間はかからなかった。
洗面所に歯ブラシが三つ、めーの、俺の、そしてコマの。

いつの間にかへし折った自分の歯ブラシと買ってあげた化粧品ひとつを床にたたきつけ、椅子に倒れていた。めーは洗濯をしに行ったようだ。

いつも、あの子は普通に生活をする。
二人でケンカした日も、約束した日でさえも、

バイトがある。眠い。忘れた。

そういってめんどくさい事から逃げてきた。

いちいち訊ねる俺もしつこいんだろう。
でも、苦しめられた自分が馬鹿みたいで不憫で
どうしようもなかった。

それからDVD観て楽しそうにするめーの後ろ見えないように、同じブラウン管を見つめながら、何故だかわからないくらい涙が流れた。

めー 俺本当にたのしかったんだ。 あの時。
お菓子たべっせあったり、笑いあったり。

 

 楽しかったんだ。



映画の途中でキスをした。

「めー コマともうしたの?」

聞く俺も馬鹿だ・・・

めーは んー とうなってコクリとうなずいた。

「2回くらい」

嘘をついてるときの態度だ。

−−−−現実。


何回か唇を交わした。

見つめためーのきれいな黒い瞳からは何の感情も読み取れなかった。

 一番、悲しいキスだった。

それからずっとめーと二人で話した。

めーはもう俺の事は好きでも何でもないそうだ。

それが事実である事がその日の態度でつたわった。

「おにたんはかわいそう?

  おにたんかわいそうな人・・・・・?」

なくまいと思っていたけど、もうとめられなかった。嗚咽をあげながらいつも甘えていたように聞いた。かっこ悪くて、悲しくて、息が詰まった。

「うん・・・・」

そう言っためーは かわいそうって言ってはまずいと思ったのか、小さな弁解をしたが何て言ったのかは覚えていない。

俺はめーもかわいそうだと思った。
そう言わなくてはならないこと。
コマと浮気をした罪悪感。
俺の重い態度。


彼女はやさしい

苦しいほどに



でも浮気されたのは自分なんだ。
めーがどんなにかわいそうでも、めーの事を自分がどれほど好きでも、裏切られたのは自分なんだ。

優しくしたい………すごく すごく…でも

優しくしてはいけない。
そう 頭の中はささやいてた

だから汚い気持ちをぶつけた。

「二股かけて騙して嘘ついて 捨てたのめーなのに」

悔しかった

「ひどい人だよ」

つらかった

「どうして無関心でいられんの?」

苦しかった

「こんなに傷つけておかしくして平気なの?」

馬鹿みてえ

「お前らだけ、いや自分だけ幸せになるなんて許せない。」

・・・

「だれとも付き合う資格ないよ」

おまえもな



めーに嫌われて 俺も嫌いになれればどんなに楽だろう。そう思って

汚い言葉を吐いた。




つぎつぎと




でも



わかったのは




こんなにめーを好きだという事で



息が詰まった。

こんなに苦しいのにまだ
こんなに好きだ。
嫌いになんかなれないよ。

よわいね よわい・・・

「ごめんな・・ごめんな・・・」

気づいたら謝っていた。

なんだかわからないけれど、左手首には皮の剥れた赤い引っかき傷がいくつもついていて、恐くなって右手で隠しているとめーがそんなことをしてはだめだと必死で止めてくれた。



子供みたいに泣いた。



何で自分はこんなにつらいのか。
苦しまないといけないのか。
わからずに。

嗚咽あげながら

息がうまくできなかった。

でも

あったかかったよ。

強く ぎゅう って抱きしめてくれたキミ。

頭なでてくれたキミ。

母親にも甘えた事なかった自分を
甘えさせてくれたキミ。


ずっとないていた



ああ・・・ もうおかしくなってしまったんだろうと。

体でもわかった。

自分でも重くて、
うまく息できなくて溺れて沈んでしまう。

いつか死ぬな。





もうダメだね





いないほうがいいね。





「めーの幸せの邪魔になるなら、おにたんはいなくなります。」

コマは優しいしめーの独りよがりな我儘も我慢して聞いてくれて車もお金もあるから ないより楽しいと思う。

そう言い通せるほど、強かったなら。


「傷つけると思うけどコマと付き合ったら」


そう言って、浮気相手の傷つく気持ちなんか考えないくらい、それを見ためーが また好きな人を傷つけて苦しむことまで頭まわらないくらい、馬鹿だったなら。

「めーはコマとも別れた方がいいと思う。めーが中途半端な気持ちでもいいなんて言う男、うん 優しいんだあいつも。でもね、めーはそいつに傷つけられるし、相手をも深く傷つけると不幸にするよ。体求められるのも多いんでしょ。」

めーに離れて欲しくないからいってるんじゃない。

そうだったんだ。

ねえ めー? 付き合い始めた頃の二人に少し似てない?

コマがあの時のめーで、めーがあの時の俺で。
・・・・どうしても、傷つけあっちゃうよ。

二人ともあんまり口には出さない方だから言わないと思うけれど、確実に傷ついてるよ・・・


めーがいとしい。めーは無関心でも、
昔俺にお兄ちゃんみたいって言ってくれたみたいに俺もめーのこと本当の妹みたいに思っているんだと思う。

だいすきです。 


自分でも驚くくらい、
偽善でも格好つけてるでもなく
めーに幸せになって欲しい。
相手を傷つけて欲しくない・・・

そう思った。

俺は苦しいけど、

こんなに本当に人を大切に思ったことないから。

「やっぱり、3人とも別れた方がいいよ」
「どうしても寂しくなったときはよべな?おにたんは、もうめーの好きな人じゃないけど、なにもしてけらんねかもすんねけど、友達としてでもそばにいるから…お兄さんだもん・・・」

めーに言うと、

「うん」

と小さくうなずいた。

嘘はついていなかったと思う。



つらいね。

ごめんね。


でも その方がいいよ。


ああ、俺はもうだれも好きになれないだろな。


そしてめーは小さくかわいい小指で小さなぬいぐるみたちや、俺ごつごつした小指を結び指切りをして約束をしてくれた。



そのとき泣いてくれた涙の跡の温もりが

服の上からちょっとずつ薄れていくのがわかった…





* * * * * * * * * * *



ELLEGARDEN


金星


最後に笑うのは正直な奴だけだ
出し抜いて 立ち回って
手に入れたものはみんな
すぐに消えた

ねぇ この夜が終わる頃 僕らも消えていく
そう思えば 僕にとって 大事なことなんて
いくつもないと思うんだ

はっきりと言わない言葉は傷つける
恨まれることさえ出来ない
そんな風になりたくないよ

ねぇ この夜が終わる頃 僕らも消えていく
そう思えば 僕にとって 大事なことなんて
いくつもないと思うんだ

今はもう ねぇ 今はもう
ねぇ この夜が終わる頃 僕らも消えていく
そう思えば 君にとって 大事なことなんて
いくつもないと思うんだ


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